国内の地域個体群について

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日本のメダカの学名は、オリジアス・ラティペス(Oryzias
latipes)と言います。オリジアスには現在20種が知られていますが、その多くは東南アジアの熱帯域にのみ分布しており、熱帯から温帯にかけて広く分布する種はこのラティペスのみです。すなわち、ラティペスは南から北へと地理的分布域を拡大した唯一のメダカなのです。日本国内におけるラティペスの分布北限は下北半島、南隈は沖縄本島です。DNAの研究から、国内のラティペスは、青森から京都にかけての日本海側に分布する"北日本系統群"と、岩手以南東日本の太平洋側および西日本に分布する"南日本系統群"の2グループに大別されることが知られており、両者は400〜600万年前に分岐した
と考えられています。ヒトとチンパンジーの分岐年代が400-500万年前だということを考えると、両グループ間の遺伝的な隔たりの大きさが想像できると思います。これはまた、大陸からく(おそらく朝鮮半馬あたりから陸づたいで)日本列島に侵入した集団が地理的に二分され、それぞれが互いに交流することなく分布を拡大したか、あるいは日本への侵入と分布拡大というイペントが過去2回にわたって起こったかということを示しています。

両系統群内でも、地域個体群間で大きな遺伝的変異が存在します。南北に紬長い日本列島で分布を拡大していく過程で、各生息地の気侯環境に対して、地域個体群が様々な適応進化を遂げてきたことが、私たちの研究によって近年明らかになってきました。まず、野外調査の結果、日本に分布するラティベスは、どの地域個体群でもその生活史は1年で完了する"年魚"であることがわかりました。

そこで、青森から沖縄にかけての様々な地点からラティペスを採集し、実験室内で成長や繁殖の特性を比較したところ、高緯度の地域個体群ほど、①稚魚期の成長は速いが成熟が遅く、そして②いったん成熟するとほとんど成長しない代わりに大量の一腹卵を産み出す個体が多い傾向にあることがわかりました。これらは、いずれも高緯度の時間的制約(夏の短さ)に対する適応を反映しています。すなわち、①北国では成長に適した期間が短いので、ふ化後は成熟を遅らせてでもとにかく成長に専念し、冬の到来前に大きな体のサイズに到達して長い冬を乗り切るための栄養(脂肪)を備蓄するような個体が自然淘汰で有利になります。
また同様に、②北国は繁殖に適した期間も短いので、成熟後は自らが大きくなることを犠牲にしてでも卵の生産に専念して、短い繁殖期間中に1粒でも多くの卵を残すような個体もやはり淘汰上有利と考えられます(余談ですが、寒い地域にはサケやニシンのように一年あるいは一生に
一回大量の腹子を抱える魚が多いのですが、ラティペスというひとつの種の中だけでも緯度に沿って同様の傾向が見られるのは、とても興味深い事実だと思
います)。北国のメダカは、まさに、短い青春を全速力で駆け抜けるのです。実際に、沖縄のある地域個体群では3月から12月にかけての10ヵ月間で産卵が見られ、稚魚の成長は通年起こるのに対し、青森での繁殖は5、6月の1〜2ヶ月間だけで、稚魚の成長期間はその後3〜4ヵ月しかありません。

北と南のラティベスには、いくつかの形態的な違いも見られます。もっとも顕著なのは腹椎骨数の差で、高緯度に生息するラティペスほど腹椎骨の多い(結果的に脊椎骨数の多い)個体の割合が高い傾向にあることがわかりました、例えば、沖縄のラティペスに比べ青森のラティペスは、平均して1.5本ほど多くの腹椎骨を持っています。これは、外見上、高緯度のラティペスほど胴長の体型をしていることを意味しています高緯度のラティペスの胴長な体型は、前に述べた成長/繁殖形質の適応進化と関係しているかもしれません。すなわち、胴長で腹腔容量の大きな個体はより大きな消化管や生殖腺を抱えられるので、それによって稚魚期の高い成長能力や成熟後の高い卵生産能力が達成されるのかもしれません。また、腹椎骨の多少とそれに伴う体型の変化は、遊泳能力にも影響を及ぼすことでしょう。

今後、腹椎骨数と個体の適応度との関係について研究が進めば、ラティペス種内の形態変異だけでなく、ダツ目魚類全体の種多様性を説明する光明が見えてくるかもしれません。

このように、同じラティペスというひとつの種でも、その実体は、外見にあらわれようとあらわれまいと、遺伝的に多様な個体/個体群の集合体なのです。これは、ラティペスに限らずあらゆる野生生物の種の実体でもあります。そしてそこには、種誕生以来の分布域の変化やその過程での適応進化といった、個々の生物の悠久の“歴史”が刻まれています。真の生物保全とは、その生物の“歴史”とそれを培った“背景”である生息場所とを、両者のリンクを引き裂くことなく、セットで後世に残すことではないでしょうか。



低緯度(より南のもの)と高緯度(より北のもの)にすむメダカでは、成長と繁殖スケジュールにこのような遺伝的な違いがあります

低緯度
繁殖/成長期間が長いから、小さいうちから繁殖しながら成長するのが有利

高緯度
繁殖/成長期間が短いから、小さいうちは成長に、大きくなったら繁殖に専念するのが有利


メダかは産地によって独目の体や遺伝子をもちます。産地のわからないものをふやして放流したりすることは、避けねばなりません。



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